2012年9月23日日曜日

退職金~退職所得か給与所得(賞与)か~

臨時教員に課税論争 兵庫、再任用前に毎年退職手当

 「退職」と「任用」を毎年繰り返す臨時教員への退職手当をめぐり、兵庫県教委と税務署の間で、異例のバトルが起きている。「実質的には継続雇用であり、退職手当とはいえない」とする税務署に対し、「現行の法を順守した結果」と反論する県教委。同様の手当を持つ全国の教育委員会が、行方を見守る。

 「兵庫県教委は1574万3千円を支払え」

 臨時教員の源泉所得税を納めていないとして6月下旬、県教委に納税告知書が届いた。県内21税務署中、姫路など4署からで、ペナルティーにあたる不納付加算税約139万円を含む。

 滞納を指摘されたのは、2007~10年度に県教委が臨時教員に支払った退職手当にかかる源泉所得税で、延べ1530人分。

 臨時教員は地方公務員法上、1年を超えて任用できない。不安定な身分の固定化を避けるためとされる。だから同じ人を継続的に任用する場合、県教委は1日以上の「空白期間」を置き、再び任用する形を取る。そのたびに月給の6割にあたる1人平均約15万円の退職手当を払ってきた。

 今回、税務当局はこの手当に目を付けた。退職は形だけで、実態は継続的な任用だから、退職手当は所得税法上の優遇措置のある「退職所得」ではなく、課税対象の「給与所得」にあたる、とみたのだ。

 そもそも「退職所得」とは何か。兵庫県を管轄する大阪国税局は「長期間、勤務してきたことに対する報償たる性質をもち、多くの場合、老後の生活の糧(かて)」とする最高裁判例(1983年)を挙げる。

 一方の県教委は、臨時教員は1年を超えて任用できないと法で定められている以上、1年を超える実態があるからといって「継続任用」とみることは、法的に不可能との立場だ。

 県教委によると、今の制度は50年前の1962年にできた。この間、税務署側の指摘はなかった。同様の制度はほかに東京、愛知、大阪、岡山、福岡など33都府県にあるが、処分例はない。県教委は「税の公平性に反する」などと、4税務署に異議を申し立てた。

■人余り避ける「調整弁」

 臨時教員は、教員免許は持っているが採用試験に合格していない人らが登録し、教育委員会が雇う。正規教員の産休や育休、病欠時などに代役を務める。

 しかし近年、自治体の財政難などを背景に、本来の「臨時」という姿が変容しつつある。

 文部科学省によると、小中学校の常勤の臨時教員数は05年度に4万8339人だったが、11年度には6万2131人に。教員全体に占める割合も7.1%から8.9%に増えた。

 団塊の世代が大量退職する半面、少子化は進む一方だ。正規採用で穴埋めすると、将来的に教員余りが起きかねないとして、臨時教員が“調整弁”として雇われている現状がある。

 臨時教員は学級担任や部活動も持つなど、基本的な仕事内容は正規教員と同じだ。しかし兵庫県の場合、同じ40歳でも臨時は正規より月給が7万~10万円安いなどの格差があるという。

 兵庫県教委の担当者は「数学など教員数が少ない教科もあり、過疎地では特に、同じ人を継続的に雇用しなければ、法定の教員数を満たせない」と話す。

■「正規採用なら退職手当なんていらない」 保証なき臨時の悲哀

 「裏付け教員」

 臨時教員は以前、こんな呼ばれ方をしていた。正規教員が出産や病気で休んでも、職場復帰を保証する教員という意味だ。

 「おれってやっぱり、『裏』なんやなあ」

 兵庫県内の小学校に勤める男性教諭(46)がそう実感したのは、大学を卒業後、臨時教員として働き始めて3年半ほどたった時のことだ。年度末に校長から「4月以降も引き続き、いてほしい」と言われていた。しかし結局、臨時教員の口は来なかった。

 日雇いのガードマンをして暮らした。ある日、春まで担任していた子どもにばったり出くわした。

 「先生、その格好、どうしたん?」

 返す言葉がなかった。

 5年間で七つの小学校を転々とし、7回目の挑戦で採用試験に合格。正規教員になって17年たった今でも、臨時教員の時の気持ちは忘れられない。いつクビになるかわからず、人生設計も立てられない。

 「税務署の投じた『一石』が、せめて、臨時教員のあり方にメスを入れることにつながってほしい」

 税務署の処分にも憤りを感じる。「喜んでクビになり、喜んで退職手当をもらう臨時教員などいない。正規教員として雇ってくれれば、そもそも退職手当なんていらないのです」(日比野容子)

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