臨時教員への退職手当、課税を撤回 兵庫の4税務署
「退職」と「任用」を毎年繰り返す臨時教員への退職手当をめぐり、兵庫県の4税務署が県教委に、源泉所得税を納めるよう納税告知処分を行った問題で、4税務署は1日、処分をすべて取り消す異例の決定をした。同様の手当は兵庫のほか東京、愛知、大阪、岡山、福岡など33都府県にあり、県教委の異議に対する初判断が注目されていた。
税務署側は6月、2007~10年度に県教委が臨時教員延べ1530人に支払った退職手当にかかる源泉所得税と、ペナルティーにあたる不納付加算税計1574万3千円を納めるよう告知。県教委は8月15日付で、4税務署に異議を申し立てた。
臨時教員は地方公務員法上、1年を超えて任用できないため、同じ人を継続的に任用する場合、県教委は1日以上の「空白」を置いて再び任用する形を取ってきた。そのたびに月給の6割にあたる平均約15万円の退職手当を払っている。
税務当局は、この退職は形だけで、実態は「継続雇用」にあたると判断。退職手当は所得税法上の優遇措置がある「退職所得」ではなく、課税対象の「給与所得」にあたるとみて、納税を求める処分を下した。
今回の処分を取り消した異議決定書で税務署側は、再任用を希望する教員のすべてが必ずしも再任用されるわけではない▽取得されなかった年次有給休暇は、再任用時に繰り越されない▽再任用までの期間は兵庫県職員としての身分を有していない――などの事実関係を列挙。「単なる任用関係の延長ではなく、実質的にも別の新たな任用関係と認められる」とし、実態的にも「退職所得」に該当するとの初判断を示した。
国税庁によると、昨年度に処理した異議申し立ては全国で4511件。このうち、原処分をすべて取り消したケースは、1%に満たない44件しかない。
兵庫県教委教職員課の担当者は「継続任用とみるのは、法的に不可能とする主張が全面的に認められた」と安堵(あんど)した様子。一方、兵庫県の税務署を管轄する大阪国税局の国税広報広聴室は「個別案件に関するお答えは差し控える」としている。(日比野容子)
臨時教員退職金:非課税 兵庫4税務署、処分取り消し
毎日新聞 2012年10月02日 大阪朝刊
任期1年で退職と再任用を繰り返す臨時教員への退職手当について、兵庫県内の4税務署が「給与所得にあたる」として、県教委に源泉所得税などの納付を求めた納税告知処分に対し、県教委が異議を申し立て、税務署側が1日、処分を取り消したことが、県教委への取材で分かった。臨時教員への退職金支給制度は大阪など34都府県にあり、課税の可否が注目されていた。
地方公務員法により臨時教員は1年を超えて雇用できないため、県教委は任期1年で採用。再任用までに数日の空白期間を置き、任期が終わるごとに平均約15万円の退職手当を支払っている。手当分は制度ができた1962年以降、実質非課税の退職所得として処理してきた。
しかし、07〜10年度に延べ1530人に支払った退職手当について、姫路税務署など4税務署が今年6月、「雇用の継続性が認められる」として給与所得と判断。源泉所得税と加算税計約1574万円の納付を求めた。県教委は「1年を超える継続雇用は法的に認められていない」などとして異議を申し立てていた。税務署側は審理の結果、希望者全員が再任用されるわけではないことなどから、再任用は新たな任用と判断した。【近藤諭、牧野宏美】
4税務署、処分取り消し
兵庫県教委が臨時教員に支払った退職手当は課税対象の給与に当たるとして、県内の姫路、豊岡など4税務署が2007~10年度の延べ1530人分の源泉所得税など計約1570万円を支払うよう県教委に告知した処分について、税務署側が「手当は退職に伴う所得」として、1日付で処分を取り消していたことがわかった。
県教委は「税の公平性に反する」と4税務署に異議を申し立てていた。
県教委などによると、臨時教員は地方公務員法上、任期は1年以内だが、満了後に数日空けて、再び採用される場合が多いという。その際、一人当たり平均約15万円の退職手当が支払われており、課税対象の給与ではなく、退職所得とみなされて、非課税だった。
この点に着目した姫路税務署などが県教委に対し、臨時教員の再任用は「実質的には継続雇用で、退職手当は給与」と判断。不納付加算税を加えて、6月に納税告知を通知した。県教委は全額を立て替え、納付したが、8月に異議を申し立てていた。
4税務署がこの日出した異議決定書などによると、「再任用を希望する教員全員が再び採用されるわけではない」とする県教委の主張を受けるなどして、再任用は新たな任用関係として「継続雇用」を否定。手当は「退職所得」と認めた。
県教委の退職手当制度は1962年から始まり、同様の制度は兵庫以外に33都府県にあるが、今回の納税告知処分は全国で初めてだった。
(2012年10月2日 読売新聞)
国税側が課税処分取り消し 臨時教員の退職手当めぐり 軍配は兵庫県教委に
大阪国税局管内の税務署が兵庫県教委に対し、臨時教員の退職手当をめぐり、源泉所得税を納めていないとして納税告知処分を出したところ、県教委側が猛反発、税務署側は1日、県教委側の異議申し立てを認め、処分を取り消した。国税当局が課税処分を取り消すのは極めて異例。納税告知処分をめぐっては、他の33都府県の教育委員会も同様の手当を非課税扱いで支給しており、国税当局の判断が注目されていた。
県教委によると、臨時教員の任期は原則1年間。地方公務員法上、1年を超えて任用できないためで、多くが満了後に1日以上空けて再任用されているという。満了時に平均約15万円支給されている退職手当は、所得税が控除される「退職所得」として実質的に非課税扱いだった。
しかし、今年6月、兵庫県の姫路、豊岡、柏原、洲本の4税務署が、「臨時教員の多くは毎年、再任用を繰り返しており、実質的には継続雇用に当たる」と指摘。非課税扱いの退職所得ではなく、課税対象の「給与所得」に該当すると判断し、県教委が平成19~22年度に臨時教員延べ1530人に支払った退職手当について、源泉所得税と不納付加算税計約1575万円を支払うよう県教委に納税告知処分を行った。臨時教員の退職手当に対する納税告知処分は全国初という。
これに対し県教委は、同様の手当がある大阪府教委など33都府県ではいずれも退職所得として扱われていることから、「税の公平性に反する。もし課税するなら全国一斉にすべきだ」と反論。処分を不服として、8月15日付で各税務署長に異議を申し立てていた。
税務署側が1日、県教委に通知した異議決定書によると、臨時教員は再任用の際に有給休暇は繰り越されない上、任用満了後、再任用までの期間は県職員としての身分を有していないなどと指摘。「再任用は単純な任用の延長ではなく、実質的にも別の新たな任用と認められる」と、県教委側の主張を全面的に認めた上で、処分の全部を取り消した。
県教委は「当初の主張が認められた」と歓迎の意向を示した。4税務署を管轄する大阪国税局は「個別の事案なのでコメントできない」としている。
国税局や税務署による課税処分に不服がある場合は、処分の取り消しなどを求めて国税局か税務署に異議申し立てができ、国税局や税務署が内部で処分の妥当性を改めて判断する。
国税庁によると、平成23年度の異議申し立ての処理件数は4511件で、そのうち申立人の主張が一部認められたのは331件。全部認められたのはわずか44件だけで、全体の1%にも満たない。